今日は、試験監督。
授業をもっていないクラスにあたった。
以前に受け持ったことのある生徒もいるが、知らない子が多い。
よそ行きモードであいさつした。
「おはようございまーす。」
とたん、わけの分かないひと言が飛んできた。
「先生、危ないって聞いた。死んじゃダメだよ。」
一瞬、何のことかと思ったが、思い出した。
自分のまいたタネだった。
あるクラスで、10分で説明できそうな問題を、解くのに30分かかった。
黒板に描いた図と、答えになるべき数式が合わない。
僕は「予習をしてこない」というのはすでに定説になっていて、
その時点で、進学校の先生としては、失格だ。
計算をよく間違える。
予習をしてこない理由については、言い訳がましくなるので、書かない。
それで、すっかり気を落とした僕は、いつもの終了のあいさつ
「はい、ごくろうさんでした」
の代わりにこう言ったのだった。
「オレ、一階の窓から身を投げて死ぬわ」
何人かが声を掛けてくれた。
「先生、ダメだよ。いまの問題、めっちゃ分かりやすかったから。」
30分かけたので、そういう効果はあったかも知れない。
だけど、僕が伝えたかったのは・・・・。
「いま、一階の窓からって言ったんだよ」
「危ないよ、死ぬから」
心が死んでいたので、表面上の意味は伝わらなくなっていた。
他のクラスの生徒にまで、なぐさめられるお粗末。
「先生、危ないって聞いた。死んじゃダメだよ。」
「ああ、精神的に死んじゃった話ね。」
「先生、パパになるんだから、元気出さなきゃだめだよ」
高校生というのは、頭が良い。
落ち込みそうな話題から、あっという間に180度話題を変える。
僕の応戦を期待しているのだ。
赤ちゃんの名前の話になった。
「『タカノリ』が良いと思うよ」
「『タカノリ』か、いい名前だね」
タカノリというのは、そのクラスにいる、僕と同姓の子の名前だ。
同姓同名になるのだから、話題にはなる。
女子が訊いてきた。
「男の子だったの?」
仕方がないので、答えておいた。
「女の子なんだけど。」(一同爆笑)
時間になってしまった。
「さあ、答案用紙配るよ」
そして、テストに突入。
彼らはちゃんと、『予習』してきただろうか。
してない訳、ないか。
みんなが真剣に試験を受けているのを横目に、
余った答案用紙の裏に、ブログの記事を書いた。
そんな時間があるなら、予習しろよ。
自分にツッコミを入れながら。