日記

飛ばないロケット花火

ロケット花火が、点火された。
それがロケット花火と気がついたときには、
すでに本体から、火花が出ていた。
初めて見るかたちだった。
チョコレートケーキの発射台の上の、
クッキーの生地でできた、ロケット花火。
1人の男の子が、そのロケット花火を、つまんでいる。
あきれて、声が出なかった。
というより、なぜか、声が出なかった。
「放しなさい」
1人目の子は、すぐに手を離した。
すると、もう1人の子が、素早くそのロケットをつまんでしまった。
「放しなさい」
その男の子は、放さなかった。
「おいコラ、放しなさい」
おかしい。大声を出したつもりなのに、僕の言葉が聞こえていない。
その男の子は、ロケット花火を見つめながら、
恍惚とした表情になっていた。
僕は、これが最後と思い、
「放せ。あぶない!」
そう言った瞬間、
そばにいた男が、ロケット花火をつまみとって、
空に飛ばしてしまった。
ロケット花火は、無事に空高く飛んで行った。
ひと安心、というところなのに、ほんの少し、悔しさが残った。
妻の声が聞こえた。
「大きな声、出さないでよ」
あら。
僕はそういう扱いなの?
僕は教育家なので、本人の意思を重くみたんだ。
出遅れたけれど、ロケット花火をつまみ取る準備は、できていた。
証拠にほら、親指と人差し指を、向かい合わせて、
今にも、何かをつまみとる体制になっている。
「危なかったわ。何をつまみとろうとしたの?」
ロケット花火。
「なんでも良いけど、もう少し、向こうで寝てくれる」
僕が、つまみとろうとした、ロケット花火のところには、
まだ生まれて45日目の、娘が寝ていた。
・・・・夢だった。
こんなところに娘が?
僕の甥っ子の、2度目の結婚式のために、
ホテルに泊まっていたのでした。


ロケット花火をつまみとった勇気ある男は、
僕の弟だった。
彼は、良しと思ったら、躊躇(ちゅうちょ)しない。
甥っ子が、離婚し、その後、再び恋に落ちた。
その甥っ子に、再婚を促したのは、僕の弟だった。
僕は、甥っ子の離婚を、食い止めたいと願う側にいる。
しかし、流れが予想以上に速かった。
どちらかが一方にでも、元の鞘に戻りたい気持ちがなければ、
復縁が進展するはずもない。
僕が話を聞いてやるべきだったのは、
甥の嫁さんの方だったなと、深く反省した。
さびしがり屋の甥っ子の方には、すでに新しい彼女がいた。
別れた嫁さんは、二人の子の、子育てで精一杯。
24歳で、2人の子の子育てに専念って、
いったい、どういう気持ち?
ところで、飛んで行ったロケットは、
どういう意味があったんだろう。
ロケットをつかんで離さなかった、
二人の子どもは、誰だったの?
ロケットの発射台が、チョコレートケーキなわけは?
僕は、神様に問いたい。
僕の自信は、この一件で、崩れ去りました・・・
しあわせって、難しい。