日記

ふしあわせの、かたち(その1)

学生時代ずっと、心の上に重たく圧し掛かっていた事件がある。
僕には三つ上の姉がいて、小さい頃よく、姉の友達に遊んでもらった。
その中に、小さかった僕が、好意を寄せていた人がいた。
どう表現していいのか分からないが、きれいな人だった。
3つ上なので、小学校の高学年以来、校舎の中で会うことはなくなり、
それでもときどき、家に遊びに来た。
姉は遠くの高校へ通うことになり、遠い町で下宿生活をしていたころを経て、僕の記憶の中から、その人のことは、消えていた。
僕が高校3年生の夏、事件は起こる。
遠くの看護学校に通っていた姉が帰ってきていた。
受験生だった僕は、家の中と外をふらふらしている。
玄関先で、見たことのある女性に、声を掛けられた。
「○○ちゃん?」・・・(僕のこと)
姉の友達だった。
「あ、姉ちゃん、帰ってきてるよ」
「うん、電話くれたの」
会話は、それだけだった。
すごい美人だった。
僕は、中に入りづらくなったので、近所を自転車で一周したあと、
こっそり裏口から帰った。
姉たちが、神妙な顔をして話しているその横を、顔芸をしながら通り過ぎる。
そのとき聞いた会話の一部が、耳に残った。
「不倫」
僕は、自分の家の構造を、恨んだ。
姉たちの会話を、視界に入らずに、聞くことができない。
僕は、なんとか話を聞こうと努力したが、意味は繋がらなかった。
どうして姉たちの顔から笑顔が消えていたのか?
だれがどこで「不倫」をしたのか?
そして、友達は帰っていった。
僕の中に、燃えたぎる疑問を残したまま・・・・
(つづく)