ソノ子を誘導するのは、コツが要った。
一応、教員になるには「教育心理学」が必修なので、少しはカジッた気がする。
しかしどんなに頭をひねっても「ロジャーズ派」という名前しか出てこない。
僕の担当教授は、そういう人だったらしかった。
ロジャーズの方法とは、
「話すだけ話させて、自分から答えを見つけさせる」こと。
聞く側がいじっちゃいけない。
教員には、「自分の意見」を押し付けたがる人が多いので、
この方法に重点を置くのは、いいことだ。
しかし、これ一辺倒だと、答えに到達しないことが多い。
それで、僕は、生徒が傷つかない程度の「痛いツッコミ」とか、
イヤラシく聞こえない程度の、ヒワイなことを言う。
これは「軽々しく、キケンな賭け」らしいのですが・・・・
だから周囲の人々に、この「キケンな賭け」の証人になってもらうには、
職員室じゃないと、ダメなの。
僕は、「最善の策」というものに、興味がない。
一人の人間が思いつく「最善の策」なんて、「トイザラス」にある
「いちばん高いサッカーボール」みたいなものだ。
いちおう、サッカーボールなのだろうけれど、
どのくらいの価値があるのか、比較のしようがない・・・・
人間、リラックスしてくると、いくつもの解決策が浮かんでくるものです。
そこで僕は、生徒に「サイッテー」な方法から伝える。
当然、拒否。
順番に、全部提案して行く。
全部拒否。
ところが、「サイッコー」だと思った方法も、
かなりの確率で「拒否」。
結局、役に立たない。
その、役立たずの「職員室みやげ」を何度となく、持たせて帰した・・・・
一年が経ち、ソノ子は、いまだにか細い。
今日も、職員室で、掛け合いをした。
周囲の先生たちから、野次が飛ぶ。
「また夫婦げんかか?」
持ち上げたことはないが「まだ30キロくらい?」と訊いたら、
「そんな軽いはずないでしょ」
と、怒られた。
「職員室みやげ」の副産物で、ソノ子は、大好きな音楽の先生から、
ひんぱんに用事を言いつけられるようにもなった。
めでたしめでたし。
彼女の「笑顔」の回数が増えるたびに、
「かわいく」なってきた気がする。
「笑顔が似合ってるよ」
っていうのは、先生が生徒に言う言葉じゃないけど、
こんど、そう伝えようと思う。