こころのくすり

”チャンス”の舞台裏

あるクラスの最後の授業でのこと。
ずっと、そのクラスで号令係をしてくれた生徒が僕にこう言いました。
「先生探したんですけど、見つからなくて」
そういいながら、課題が提出できなかったことを詫びました。
ちょうど、娘が生まれるた時期だったため、放課後はいないことが多く、
僕に直接渡そうとしていた彼は、ずっと探していたそうです。
ほとんどの子は、僕の机の上に、課題を置いて行ったんですけど。
チャンスを取り逃がしてしまう原因のひとつで、
「ばか正直」っていうのは、大きいですね。
もう、成績は、つけ終わっていました。
記憶によれば、その子の成績はとてもいいので、
課題の提出は、必要なわけではない。
「たしか、成績の方は大丈夫だったよ」
そう言うと、その子は安心したようでした。
本当かな?
職員室に帰って成績を確認して見ました。
あれれ、その子の成績は「4」でした。
おかしい。
記憶の中では、限りなく「5」に近いんだけど。
原因を調べてみると、前期のテストが、ひどい点数でした。
しかし、後期だけを考えると、トップ集団です。
しかも、えらい勢いで伸ばしている。
「これは、救ってあげなきゃ」
彼の他に、成績が急上昇した生徒がいないことを確かめ、
その子の担任のところに走りました。
「もうとっくに、一覧表出しちゃいましたよ」
もう手遅れだよ・・・・という表情でした。
「僕がちょうど早退続きだったんで、
直接課題を渡せなくて、出しそびれたんですよね。
バカ正直なやつだから」
なんとかゆるむように、状況をアレンジします。
「いやぁ、残念だけど」
僕の心の奥では、
たとえ校長のハンコが押された後であろうと、
訂正は可能と思っていました。
しかし、クラス担任にそこまで要求できるか?
あきらめてよ、という雰囲気がただよいます。
ここで僕があきらめたら?
その子はその成績で受験を戦い抜かなくてはなりません。
悪戦苦闘していた表情が思い浮かびます。
一年間、号令係をがんばってくれたのに・・・
「なんとか訂正できませんか?」
もう一度粘ってみました。
自分でも、しつこいな、と思ったんですけど。
その結果・・・・
「学年主任に、聞いてみてください。もしOKなら、いいですよ」
OKをもらいました。
学年主任のところに走ります。
「もう確認終わって、出しちゃったんだけど、
もう一度戻ってくるから、訂正して置いてくれる?」
学年主任の方はあっさり通りました。
こんな風に、その子の成績は、1つ上がりました。
たかが、ひとつの科目の成績ですが、
大事に大事にしている子もいます。
これが、その子の実力につながっていきます。
この子のチャンスを開いたのは、
積極的に、自分から課題の言い訳に来たことと、
そして、現実に、この子が成績を伸ばしつつあったことです。
「こつこつ」と「積極性」
この子から学びました。