僕が高校1年の頃、図書委員に立候補した。
理由は、小学校、中学校と、これしかやったことがなかったから。
家に、父がもらってきた「少年少女文学全集」があって、その抜けている巻を読むために、図書館に手を伸ばしたのがきっかけ。
ただ、中学、高校と進んでからは、昼休みに時々仕事をするだけで、
放課後は顔をだしたことがない。
僕以外はみんな女の子で、部活に入っていない子が、喜んで放課後の仕事をした。
高校の司書の先生は、おバアちゃん先生だった。
優しい先生なのだが、どこか、空気が抜けた感じの人。
口の悪い生徒に付けられたあだ名は「生けるシカバネ」。
それは、ないだろうとも思ったが、言い得ていたのが、痛かった。
貸し出し期限を守らない生徒が多い。と、怒っていた。
それで、暖かい空気が、少し、抜けたのだろう。
2年生でも、僕は懲りずに図書委員を続けたが、
後期には図書委員長になっていた。
しかし、その先生は、僕が3年に上がるのと同時に、退職された。
立場上、プレゼントでも考えるべきだったのだが、図書委員には、そういう結束はない。
あれれという間に、終業式が来て、退職してしまった。
始業式。
若い女の先生を見たという、ウワサが立った。
友だちが「職員室」をのぞきに行ったが、いなかったらしい。
そりゃそうだよ、と、今なら思う。
新任の先生たちは、はじめ「会議室」にいるものだ。
体育館のステージに、新任の先生たちが並んだ。
「あの女の先生、何の先生だ?」
男子生徒たちが、いっせいにどよめく。
教頭先生から、役職の紹介がある・・・
「図書館司書としてがんばってもらいます」
「司書の先生だ」
僕がつぶやくと同時に、前後の男子から小突かれ、となりの女子が、僕の顔をのぞき込んだ。
「○○クン、にやけてる」
言い訳のしようがないほど、顔がゆるんでいた。
というより、顔の筋肉が、どこにあるのか、わからなくなった・・・・
図書館情報大を出たばかりの、22歳新卒。
この学校の職員の平均年齢を、一気に若くした。
僕の心に、春がやってきた瞬間だった。